ぼたもち寺と呼ばれる常栄寺は、大町の小道の奥にあります。日蓮上人と深い縁を持つお寺です。
常栄寺の裏山は、源頼朝が行っていた「千羽鶴の放生会」を見物するための桟敷台(=展望台)が設けられていた場所だったそうです。
鎌倉時代の後期、この場所に桟敷尼(さじきのあま)と呼ばれる尼が住んでいました。
文永八年(1271年)、鎌倉幕府に捕えられた日蓮が、龍ノ口刑場(現在の藤沢市片瀬、龍口寺があるところ)に送られる際に、桟敷尼が胡麻のぼた餅を作り、「仏のご加護がありますように…」との祈りをこめて日蓮に差し上げました。
桟敷尼の祈りが通じたのか、日蓮は首を討たれるすんでのところで処刑を免れます。そして、このときのぼた餅は「首つぎのぼた餅」と言われるようになりました。
龍ノ口刑場で日蓮上人が処刑を逃れた「龍口法難」にちなんで、毎年9月11、12日にぼたもち供養が行われます。この日は、各地の日蓮宗のお寺で法要が行われますが、ぼたもち寺の名を持つ常栄寺では、境内で胡麻のぼた餅が振る舞われます。
12日の午後には池上本門寺(東京都大田区)から、藤沢の龍口寺で開かれる龍の口法難会(たつのくちほうなんえ)に向かう万灯の一行が、常栄寺に立ち寄ります。まとい振りが奉納され、普段は静かな大町の小道の奥に、一時、賑やかな鳴り物が響きます。
龍口寺の法難会は、門前にたくさんの露店が出る盛大なお祭りです。12日には夕刻から、何組ものまといや笛、太鼓に先導された万灯が、参拝のために行列をつくります。深夜の法要の後には、ぼた餅まきが行われ、厄除けのぼた餅を求めて多くの人が集まります。
常栄寺のぼたもち供養は、龍口寺のような賑やかさはありませんが、故事にならって龍の口に向かう一行を迎え、ぼた餅を捧げ送り出すというのが、なんとも奥ゆかしく心温まる雰囲気です。
11、12日に訪れた人なら、参拝の後、誰にでもぼた餅とお茶をすすめてくれます。
今年のぼたもち供養は、晴天に恵まれました。陽射しは強烈でしたが、吹く風は爽やかで心地よく、日陰に入れば秋の気配。常栄寺境内には、ハギやハナトラノオの花が咲き、華やかな万灯や威勢のいいまとい振りを引き立てていました。
参拝すると、参道わきのテントからお寺の方が「お茶いかかですか〜?」と声をかけてくれます。寸志を奉納して、お茶とぼた餅いただきました……う、美味い! この日のきつい陽射しにいたぶられた身体に、ほどよい甘さと塩気が染み入ります。ぎゅっと握られた餅米に、みっちりと香ばしい胡麻あんがまぶされてます。黒胡麻のぷちぷち感がなんともすてき!
お接待していただいた分をぺろりと平らげたあと、「首つぎ餅」一箱購入しちゃいました。この「首つぎ餅」、大町四つ角の和菓子屋さん・大くに製なんです……美味いはずです。
難を避けて、首をつなぐ→リストラ避けのご利益がありますよ! きっと!! 首つなぎ守というお守りもあります…こちらは、すでにサラリーマンの方々を中心に、注目を集めているそうですよー。