美鈴の七月のお菓子は「文月」。
包みを開けると、ぷぅんと麦の香ばしい匂いがします。夏の日差しを連想する麦の匂い、陽なたでからっと干上がったような質感の押物菓子です。
夏のお菓子というと、寒天や葛を使った目にも涼やかなものを連想しますが、この「文月」は真逆ですね。濃くて短い影が射す、真夏の真昼をイメージさせる、まさに夏のお菓子!
透明感とか、さっぱり感とかはありません。
口に入れると麦焦がしの粉がほろりと崩れて、お日様っぽい麦の香りが広がります。
中に入っている小豆漉し餡は、水分少なめのしっかりした餡です。
「文月」を食べるときは、必ず日本茶、できればお抹茶、もっとできれば冷水でたてたお抹茶を用意するべきです。お菓子を口に入れた後に、お茶を口にすると……その時、このお菓子の実力が感じられるでしょう。麦焦がしの粉っぽい味が、滑らかな甘さに変わっちゃいます。
あぁ、甘味好きでよかったー!
真夏日の昼下がりに、「文月」と冷茶でおやつにしたら、力強い素朴な甘さに元気が出ます。
この味を楽しめるのは、甘いもの好きの人だけです。夏の暑さとおんなじで、無理しては楽しめないお菓子だと思います。
あえて涼やかさナシの「文月」には、なんとも挑戦的なスタイルを感じます。暑さをしのぐんじゃなくて、猛暑も真っ向から楽しんでくれようぞ! っていう意気込みがある。南中した真夏の陽ざしのイメージなんですね。
食べると、口の中の水分が粉に持っていかれちゃいますから、くれぐれもお茶の用意を忘れずに!
打って変わって、「七月の上生菓子」は涼しげな錦玉羹が主役です。
「冷蔵庫に入れて!」と美鈴の女将さんに言われました。ちゃんと冷やしていただきます。こっちは熱い煎茶がいいかな…。